男は、小さな社会の中で”カンガルー”とされ、不条理に死んでいく。”カンガルー”とは一体なんなのか。男の孤独な死の持つ意味とは。 この劇に登場するのは、誰しもが見覚えのある人たち。彼らが紡ぎ出す喜劇的なやり取りは、条理を外れていながら、どこか見たことがある。 別役実「カンガルー」。 劇に暗喩された、社会、宗教、思想を読み解く不条理喜劇が、いま幕を開ける。
おまえさんは、カンガルーだ。
船出をしようと波止場にやってきたひとりの男。 乗船手続きをするために船長とおぼしき老人に声をかけるが、男は"カンガルー"と呼ばれてしまう。 老人は言う。「"カンガルー"は船に乗れないシキタリがある。」 自分は"カンガルー"ではないと男は否定するが、いつのまにか周囲の人間たちも男を"カンガルー"として扱いはじめていく。 途方に暮れる男の元へ、自分も〝同類〟だと告白する娼婦が現れ、男の船出を手助けすることになるが‥。
生演奏で紡ぐ、音と光の物語。 男が導き出したささやかな祈りとは。 人々の孤独と生き様をコミカルに描いた別役実の音楽喜劇。
「むかーし、むかし」の語り口から始まる『まんが日本昔ばなし』の語り手として、長く視聴者に親しまれた常田富士男。 1968年に自身が座長を務めた演劇企画集団66にて、別役実の「カンガルー」を上演。主人公の男を演じる。 同氏との共作語り芝居「ふなや」をはじめ、別役作品の舞台公演を自身のライフワークとした。
2018年7月18日、人生の幕を降ろす。
本公演は常田富士男の孫が、祖父への追悼として、所縁のある出演者をキャストし主催、演出をする。
演劇企画集団66による「カンガルー」から50年の時を経て。